【2018春版】TVドラマをできるだけたくさん見て感想を書くブログ

脚本家目線で2018年春のTVドラマをできるだけたくさん見て感想をまとめます!

ラブリラン③(2018/4/18放送):”新感覚”の正体は「古代エジプトドラマ」

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 15年間の幼馴染・鷺沢への片想いをこじらせた結果、30歳にして男性経験のない南さやか。「私なんてどうせ・・・」と、恋愛というリングにあがることを拒否し続けてきた。そんなある日、さやかが目を覚ますと目の前には、見知らぬ男が。「どういう事?いったい誰なの?何が起きたの?」パニックのさやかに対して、その男は町田と名乗り、2人は付き合っていて、同棲をしていると言う。どうやら3ヶ月間の記憶をなくしているらしい。しかも、町田との間では”経験済み”・・・つまり、記憶喪失の間に処女を奪われてしまっていたのだ。記憶をなくした3ヶ月の間に、いったい何が起きたのか!?(中略)思いっきり笑って、どうしようもなく泣けて、いちいちキュンとする!!記憶喪失から始まる新感覚ラブコメディにご期待ください!(公式サイトより)

 

「思いっきり笑って、どうしようもなく泣けて、いちいちキュンとする!!」・・・こんな煽り文句のドラマを見た僕が悪かった。でもこれを見つけたのはブログを書くためにドラマ鑑賞後に公式サイトを確認した際なので、時すでに遅しであってだな・・・!

1回目と2回目の放送を見逃しまして、3回目の放送を録画で見ましたので感想を書きます。
で、このドラマについて書くのは今回が最初で最後。理由は簡単、つまんなかったから。いや、つまらないを超越して何か呪いをかけられたような、開始20分あたりから頭がぼーっとしてきて、変なクスリでも打たれたかのような、よく”脳味噌に膜が張ったような”ってな言い方をしますけども。

 

 

第3回の総評・・・★☆☆☆☆☆

 

1. このドラマのことはクソミソに言うけど中村アンさんは大好きです


中村アンさんは(同い年だからか)以前から女性芸能人で一番好き(なぜならタイプだから。同い年関係なかった)です。こちらの写真をご覧ください↓

 

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 第1位。

確かに美貌は1位なんですが、数年前からドラマにかなり頻繁に出演されています。ある時彼女の出演シーンを初めて見た時、「是非バラエティとモデルだけにしてほしい」と願わざるを得ませんでした。タチが悪いのが、おそらく中村アンさんは「ご自身の演技が下手であること」をかなり自覚しながら演技をしている。下手クソなりの一生懸命さ、というのが滲み出ているんです。それが見ていて本当に痛々しい。好きなだけに見ていてツラい。好きなだけに。同い年だし。

 

僕の中村アンさんへの気持ち(キモッ)を前提として、このドラマ「ラブリラン」についてはメチャクソに言います。つまんなかった。ああ本当につまんなかった!ああスッキリした。

好みは人それぞれなので、自分が嫌いな作品について面白いと言う人を批判するのは気が引けますが、「キュンキュンする!」って某サイトでコメントしてたそこの君!いい加減にしたまえ!是非デートしよう!

 

2. 記号的表現による統一感:隅から隅まで

”記号的表現”というのは聞き慣れない人もいるかもしれない。難しく言うと「ある状況や人物に関する、作者と視聴者の間で共通する前提(=イメージ)に基づいた表現」ということになるのでしょうか。ちょっと違いますが「ステレオタイプ」とも似ている意味合いですね。
分かりやすい例でいうとヤクザ。ヤクザを記号的に表現すると、【金のネックレス・グラサン・パンチパーマ・派手な服装】という「ドラマとか漫画でよく見るアレ」になります。パンチパーマはさすがにもう無いか。まあでも伝わるでしょ。

 

記号的表現は使い方次第では有効に働きます。例えば主人公が酔っ払いに絡まれるシーンがあった時、その酔っ払いは記号的に表現されることで「人物ではなくシチュエーションの一部と化す」ので、観客の注意を主人公の心情や行動にフォーカスさせることができます。ここがミソで、記号的に表現されたキャラクターは「人物ではなくシチュエーションの一部」になる。ここ超大事。

更に言うと、キャラクターだけでなくシチュエーションそのものや台詞も記号化が可能です。「作者と視聴者の間で共通するイメージ」があればいいので、例えば↓

 

「告白」のシーンを記号化・・・女の子がハート型のシールで封をしたラブレターを「好きです!」と両手で思い切って差し出す。相手の男の子は「め、めぐみ・・・」や「ど、どうしたんだよ急に・・・」や「お、おいおい」というように必ず一文字目を重ねて発言。

 

「寝坊」のシーンの記号化・・・パンをくわえて家を飛び出して(以下省略)

 

では「ラブリラン」はどうだったか。これはもう衝撃としか言いようが無いんですが、このドラマに出てくる全シーン、全キャラクター、全セリフ、全てが記号だけで構成されているといっても過言ではないんじゃないでしょうか!!!

まさにヒエログリフ

 

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中村アンさんが告白するシーンも、ずっと好きだった人とデートに臨むがなぜかラーメン屋に連れてこられてガッカリしたけど「ここは昔二人で行った思い出のラーメン屋と同じ味のラーメンだよ」的なことを言われてやっぱりテンション上がるシーンも、営業先にプレゼンしようとしたけどガチガチで資料を全部床に落としてしまうシーンも(第一、PCでプレゼンするのにあんな紙資料を持っていく馬鹿がどこにいる)、その後やっぱり勇気が湧いてきてやたら個人的なストーリーを交えたプレゼンを始めてクライアントから「君は一体何が言いたいんだ」的なこれまた型通りのヤジを飛ばされるシーンも、

ぜーんぶ!!!ぜーんぶ記号!!!

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これで何が起きるかといいますと、ずーっと呪文を唱えられているような感覚に陥るんですね。冒頭で言っていた「頭がぼーっとしてきて、変なクスリでも打たれたかのような」感覚というのは、まさにこれが原因です。「俺はいったい・・・何を見ているんだ・・・!?」・・・ぽやぁ・・・な、中村アン・・・か、かわいい・・・バタン


3. 歴史的な無機物的ナレーション:放送部の歩美ちゃん(仮名)を思い出す


あまり演技を評価する時に「棒読み」という言葉は使いたくないのですが、稀に「棒」としか言いようが無いセリフ回しをする方がいらっしゃいます。「コンフィデンスマンJP」評でも書きましたが東出昌大さんなんかはその代表例ですね(すいません)。


で、中村アンさんなんですが、棒とは少し違う。しかも、以前見たドラマに比べれば演技自体は断然良くなっているように見えました。ただ、あくまで普通のシーンは、です。

心の声のナレーションが多用されているドラマなのですが、とにかくそのナレーションがですね、棒というより無機物に近いです。トゥーーーーーーーって感じ。多くの人が文字を読む時に頭の中で声に出して読んでると思いますが、その「頭の中の読み方」に近い。心の声なんだから「頭の中の読み方」になってんだったらピッタリじゃん!と言う人がいるかもしれませんが、そりゃ屁理屈ってもんや。

 

冒頭にも書きましたが、中村アンさんの一生懸命さはすごく伝わります。ナレーションの録音現場、スタジオでマイクを前にして、ぎっしりとメモが書き込まれた台本を両手で持ち、主人公の心情を想像しながら、気持ちを込めてセリフを読む中村アンさん、その姿が目に浮かびます。

でも録音を聞いてみると、無機物。炭素が無い。なぜだ。あんなに頑張ってたのに!
これはもうしょうがないと思います。僕も演技の才能がこれっぽっちも無い人間なので、痛いほど共感します(勝手に)。頑張ってんのにできないんですよね。

 

小学生の時、学校での給食時間や昼休みの終わり、下校時間を知らせる放送。その放送を担当する放送部員の中に歩美ちゃん(仮名)という子がいました。歩美ちゃんはナレーションが上手と評判でした。

「もうすぐ、昼休みが、終わります。授業に遅れないよう、早めに、教室へ戻りましょう。ピンポンパンポーン」

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不幸だったのは、小学校の放送だけで通用するあの独特なイントネーションを中学時代にも継続したことでした。国語の時間の音読でそのイントネーションを発揮した時は、ごめんなさい、どうしても笑ってしまいました。だって放送と音読は違いますからね

「ラブリラン」でのナレーションは、そんな歩美ちゃんを思い起こさせるものがありました。


4. 「失くした記憶」の扱い方は新しい(と好意的に解釈)


第1回と第2回を見逃したのでフェアな意見は難しいのですが、記憶喪失の物語では主人公の第一目標は「記憶を取り戻すこと」と「もう一つ何か達成すること」が同時進行するのが通例です。傑作「ハングオーバー!」で言えば、「記憶を取り戻すこと」と同時に「無事に結婚式を実行する」という2つのミッションになりますね。

この同時進行というのがポイントで、「記憶を取り戻すこと」だけが主人公の目標だと、「なぜそんなにまでして取り戻したいのか」という動機付けが出来ない。「別にそのままでも何とか暮らしていけるやん」と観客に思わせてはいけないワケです。

 

考えてみれば主に長編の物語では複数の課題解決の過程が同時進行するのが一般的です。「タイタニック」なら2人の恋物語タイタニック号の沈没。「最後の恋の始め方(原題:Hitch)」ならウィル・スミスの恋物語と、彼のクライアントの恋物語、2つの恋物語が同時進行します。

さて、「ラブリラン」。これも主人公の記憶喪失の物語と併せて「どっちの男(以前から好きだった男と、記憶を失ったからなぜだか分からんけども気付いたら同棲を始めていた男)と結ばれる?」という恋物語、2つのストーリーが同時進行します。ただし「ラブリラン」で特徴的なのは、記憶を取り戻そうとする気概が弱っちい!なぜかと言えば簡単で、割と簡単に「あ、そうだここは確か!」と自然と記憶が蘇ってくるからなんです。

これがダメだとは言わないのですが、やっぱり「ハングオーバー!」にしろ「ボーン・アイデンティティ」にしろ「メメント」にしろ、記憶喪失が絡む物語では「記憶」が最も重要なものとして扱われる(そらそーだ)のが常套手段であるのに対し、「ラブリラン」ではむしろ「まあ記憶は失くなったけどさ、じたばたしても何も思い出さないし、大事なのは今とこれからっしょ!」という超ポジティブ発想、とにかく失った記憶に対するハングリーさが全然無い。とにかく恋。恋と記憶どっちが大事かって、そりゃ・・・記憶に決まってんだろ!もっと必死になれよ!んなもん信じられるか!!

 

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中村アンさん、これからも頑張ってください!応援してます!小物力みがいていきましょう!(しがない脚本家より)

シグナル②③④(2018/4/17, 2018/4/24, 2018/5/1放送):非日常をどう受け入れさせるか、それが問題

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一つ事件が一件落着したので第2回から第4回をまとめて書く事にしました。結論から言うと「普通の刑事ドラマ感」が出てきたのが、韓国ドラマのやるせなさを期待していた自分としては少しがっかりした、というのが正直なところ。でも作り手の真剣味が伝わる熱気あるドラマです。面白い。


第2回〜第4回の総評・・・★★★★☆☆

 

1. 反省をさせたがり症候群


面白いんです。人間もよく描けているし、キャラクターは立っているし、サスペンスの盛り上げ方も上手いと思います。めっちゃ上からですけど。北村一輝さん演じる過去の刑事が、未来からの坂口健太郎さんからの「いついつにどこどこで◯◯さんが殺されます」という忠告を受けて「助けに行かねば!」って焦るけど、手錠に繋がれちゃってて「うおおお!」ってなるシーンなんか、ものすごくヤキモキしましたもんね。破天荒な捜査をする北村一輝さんにしびれを切らした同僚に手錠を嵌められちゃった訳ですが、「お前なんかこうだっ!」つって乱暴に手錠嵌められる所とかめっちゃ韓国っぽいですよね。もちろん、あくまで映画で見る韓国ですけども。人をやたら雑に扱うあの感じ。

 

ただですね、結局事件解決と同時に犯人、今回はモロ師岡さん演じる犯人の父親でしたが、反省させるんですね、主人公の坂口健太郎さんが。「あなたがやったことは・・・!」つって。それが所謂「普通の刑事ドラマ感」です。勝手に名付けてますけども。水戸黄門から(いやもっと前からか)脈々と受け継がれてきた「悪人は反省すべし」という伝統。モロ師岡さんが「あぁあああ!」と叫んで連続殺人の被害者の女性達の写真を手に取る。心の底からのごめんなさい。大反省。これがすごく僕には邪魔に感じました。彼が泣き叫んで反省をする事で視聴者は多少なりとも溜飲が下がる訳ですが、「シグナル」に関して言えば韓国ドラマ特有の「やるせなさ」をもっと前に出してほしかった。これは好みの問題ですけどね。でもあまりに綺麗に終わろうとしている、まとめようとしているのが、少しわざとらしく感じたわけです。

 

なんなら罪は認めるけど全く後悔を見せないモロ師岡さんを前にして、日本での犯罪捜査の洗礼を受ける主人公、というシーンを見たかった気もします。繰り返しますが、これはあくまで好みの問題ですけども。

 

2. 時空を超えた通信の受け入れ方:ウディ・アレンのすごいトコ


これがこのドラマの一番の壁というか、最もこの作品を書くに当たって気を配るところだと思います。「過去と未来の人間が無線で通信する」というSF設定を、どう現代の一般社会のドラマに組み込むか。前回のシグナル評で取り上げた「イルマーレ」でも、なかなかこの設定を登場人物は受け入れない。そりゃそうだ。「まさか・・・まさかねえ」を繰り返して色々試した結果やっと、「まさか・・・マジか・・・!」と信じる事になります。日常に非日常が入り込んでくる(極端に言えば「スパイダーマン」なんかもそうですね)作品においては、そのSFチックなできごとについて「本当に起きているんだ」と主人公が信じるタイミングがファーストターニングポイントになっている事もしばしばですね。

つまり「どう信じさせるか」は脚本家の腕の見せ所になってきます。特にTVドラマのようにあまりそこに時間が割けない場合は尚更、効率良く信じさせないといけないから、さあ大変。

で、「シグナル」はどうだったかというと、割と抵抗なく「これは過去の大山っていう刑事と通信できる無線なんだ!」と信じているように見えます。何がきっかけだったかは正直覚えてないので、”だんだん信じた”という事だったんだと思います。忘れてただけだったらごめんなさい。

知り合いにはよく喋る事なんですが、映画監督・脚本家のウディ・アレンの最もすごい所は、登場人物が取る行動、どれを取ってみても「そうするしかないよね!」と思わせてくれる所だと、僕は思っています。「カサンドラズ・ドリーム」なんかはその最たる例。めちゃめちゃ面白いので未見の方は是非。

優れた作品は全部そうですね。キャラクターの行動に必然性があって、且つ観客から見ても合理的です。逆に「いや、そこはこうすればいいやん」と思わせてしまったら、もうその作品はその時点で負け。脚本家の都合のいいように、脚本家の進めたい方向に話を運ぶために無理やり取らせた行動というのは、すぐにバレます。

「シグナル」にそういう無理があったとは思いませんが、やはりこのSF設定をどう主人公が受け入れるのか、という所はもっと印象的に描いてもよかったのかなと思います。もちろん僕が忘れてしまっている or 見落としているだけという可能性もありますけども。

3. 北村一輝さんの絶妙さ

これは是非とも強調しておきたい。北村一輝さんは圧倒的に素敵です。

90年代という「そんなに昔じゃない過去」って、演じ方が結構難しいと思うんです。もちろん演出も。昭和だと「昭和感」という何となくの共通認識がありますが(もちろんその「っぽさ」だけに頼るのは危険ですけども)、90年代ってまだ映画の中やドラマの中でも世界観が確立されていないように思えます。で、現在、つまり2018年と90年代のキャラクターの間で「人間的な差異を出す」事がドラマを盛り上げるために必要になってくるのですが、90年代の人間にどの程度まで洗練されていない感じを出すかという点で、北村一輝さんは最高の役作りをされているのではないでしょうか。本当に上手い。すでに妻には力説しておきました。

色々と御託を並べましたが、面白いです。次回以降にも期待!!

あなたには帰る家がある③(2018/4/28放送):なぜこれを第1話にしなかった!

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少し前回の更新から日が空いてしまいました。更新するにはドラマを見なければいけないという至極当たり前の現実の前に少しばかり脅威を感じております。とは言え、まだ少ない読者の方々から悪くない反応を頂いているので、それをモチベーションにまた悪口を綴っていこうと思います。

 

というわけで「あなたには帰る家がある」第3話。第2話は見逃しました。はっきり言って見逃しても全然問題なかった。つまりどういう事か?第1話と第2話は、ただの状況設定でわざわざ回数を割くほどの価値が無かった、つまりこのドラマは第3話から始めるべきだった、というのが僕の結論です。

 

第3話の総評・・・★★★☆☆☆

 

1. ドラマは最初のシーンから面白くあるべき

ブリーフ姿でガスマスクを着けた男が運転するキャンピングカーが荒野を猛スピードで疾走。
これだけで「はいもう全シーズン見るー」って気になりませんか?なりますよね。アメリカのTVドラマの大傑作「Breaking Bad」の第1話のオープニングです。

 

何が言いたいかというと、とりあえず冒頭のつかみは頑張りましょう。という脚本家の任務についてです。
今回の「あなたには帰る家がある」第3話のオープニングは、返り血らしき物を浴びた中谷美紀さんが自宅マンションのエントランスに入って来て他の住人がビビる、というシーン。そして少し時間を巻き戻して、「どうしてそうなったか」を見せていくというサスペンスではおなじみの語り方だけども、是非ともこれを第1話でやっていただきたかった。「血に見えたのはソースでした」というのはベタではあるけども、文字どおり「何も見るべき要素が無い」第1話よりは全然マシなわけで。

 

オープニング以降も、第1話と比べて人間関係や感情の変化がちゃんと起こっていて、語るに値する内容だったと思います。
「いやいや、それは第1話と第2話できちんと状況設定をしたからだ!」という意見が聞こえてきそうですが、バカを言っちゃいけない。状況設定だけで2話分も付き合ってくれるほど観客は暇じゃない。というか状況設定のシーンをいかに状況設定に見せないかは脚本家の最大の腕の見せ所の一つなんですよ。

第1話の最初のシーンから、もう観客との戦いは始まっとるんや。それを忘れたらあかん。


2. やばい状況で「やばい」という顔をするんじゃない!

とは言え、玉木宏さんの演技はいただけない。彼がしっかりしないと、この物語の全てが嘘になって信じられなくなって結果、ドラマを見る気を失くしてしまう。

何がダメなのかと言うと、ずばりこのセクションのタイトルのとおりです。やばい状況で「やばい」という顔をするのは、一人の時だけにしてくれ。ましてや妻(中谷美紀さん)という「やばいと思っている顔を一番見られてはいけない人間」が隣にいるのに「やべっ・・・」なんて表情をあからさまに出す人間がどこにいる?まさしく「ドラマ用」の作った演技で、まあ安っぽい。もやし1パックぐらいの値段にしかならねえ。28円+消費税だ。

 

あんたが「やばい」と感じていることなんて、それまでの文脈で猿でも分かるんですよ。なのに、そこで「やべっ」なんて説明過多且つわざとらしい表情されたら、「事実を隠さなければならない」というあなたの心情が全部嘘になって、結果シーンのおもしろさが半減どころかゼロになるんですよ。「事実を隠そうとしている様子」がシーンのサスペンスを演出するはずなのに、「最初から隠すつもりない奴」に見えちゃう。超台無し。もったいない。タダで見てるくせに「金返せ」という言葉が頭をよぎったのは俺だけじゃないはず。


3. しょうもない事はしょうもなく描いてはいけない:妻が見るのをやめた理由

前段とも関連する話ですが、玉木宏さん演じる「不倫していた夫」が、とにかくしょうもない男として描かれます。ここが非常に問題でして、しょうもない男をしょうもない人間と作品側がレッテルを貼ってしまうと、見ている側は「なんでこんなしょうもない奴のドラマを見なきゃいけないわけ?」とストレスが溜まります。事実、僕の妻は「くだらない」と言って少々機嫌を損ねてしまいました。きっと「時間を返せ(or 金返せ)」と思っていたのでしょう。

もちろん作品側が「こいつはしょうもない奴ですよ」と演出する必要があるキャラクターも存在します。ディカプリオの「ロミオとジュリエット」に出てくる、ジュリエットの婚約者とか良い例ですね。花火のシーンのアホ面は最高でした。映画自体は僕はあんまり楽しめなかったですが、彼のしょうもなさは最高でした。

 

Leo Dicaprioさん(@xx_leo_dicaprio_xx)がシェアした投稿 -

 

翻って玉木宏さんのキャラクターはというと、彼を「しょうもない」と判断するのはあくまで観客がやるべきことであって、作品側が「コイツはしょうもない奴だ」とアピールしてはいけないんですね。そうすると彼の不倫に怒る主人公の中谷美紀さんまでしょうもなく映ってきて、主人公がしょうもないという事はこのドラマもしょうもないという事になる。この負の連鎖。戦争が無くならないわけだ。

立川談志師匠の「落語は業の肯定」という言葉がありますが、これは落語に限らず芸術は全てそうだと思います。業、即ち「人間の(マイナスな意味での)本質」を受け入れること。このドラマはその逆を突っ走っているわけですね。

というか、彼を「しょうもない人間」と断罪できるほど、このドラマの制作者たちは立派な人間なのか大いに疑問っすけどね。

 

4. 木村多江さんの恐るべきリアリティ

木村多江さん演じる玉木宏さんの恋人は、そりゃもうリアルです。いますいます、こういう静かだけどクシャッと笑う、なんか動きもヘニャヘニャしててフェミニンな服が大好きで、ベッドの上では男が喜ぶ乱れ方して、とにかく「あなたと一緒に過ごせて幸せ」感を道にマーキングできそうなぐらいプンプン出してる奴(被害経験アリ)。

もちろん木村多江さんの演技力のなせる技なのですが、彼女の出ているシーンはもういつセックスが始まるのか分からないほどなんかイヤラシイ。これはこれですごくドラマとしては良い事だと思うのですが、それを玉木宏さんがたまにぶち壊すのが非常に残念。
この写真をご覧ください↓

こういう女性には注意しましょう。

コンフィデンスマンJP②(2018/4/16放送):悪役のスケールはジャイアン並み

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マジかよ」と目を疑った第1回より、断然面白くなっていました。荒唐無稽さは第1回よりだいぶ抑えられていた点(それでもよっぽどだけど第1回が酷すぎた)、悪役の吉瀬さんも「なぜそうなったのか」という説明があった点、あとは冒頭のシーンがきちんと機能した(小日向さんだったから)点がプラスでした。

 

 


第2回の総評・・・★★★☆☆☆


1. 全攻撃を片腕で受けそうなロシアンマフィア

しつこいので前回との比較はここで終わりにします。っていうか第一回の「ゴッドファーザー編」と比較するなんて、言ってみれば、18歳の高校生が小学3年生にかけっこで勝ったぜ俺速いって胸張ってんのと一緒ですからね。


てなワケでだいぶハードルが低くなっている状態で見た第2回の「リゾート王編」でしたが、とりあえず冒頭のロシアのマフィアの安っぽさは何だ。スーツにサングラス。マトリックスキアヌに憧れてサングラス掛けてた俺の小6時代を思い出したぞ!

右腕を非常にシンプルに動かして全ての攻撃を受けきっていた、あのキアヌにだ!

 

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なんて安っぽさを指摘していたらこのドラマの感想が「安っぽい。はい終了」になってしまうので、今後はこのドラマについては「安っぽさは指摘しないこと」をルール化したいと思います。


因みに、安っぽさっていうのはセットとか衣装とか、表面的なところだけじゃないっすからね。って結局安っぽいって言ってしまうので、今後もたまには言っちゃうかも!ただ、「安っぽい」という言葉がいろんな意味を包括し過ぎてて感想や評論に使うのに推奨されるワードじゃない事も確かなので、気を付けます。

言うてもこのブログも安っぽいっすもんね。
うるせッ!


2. ”リゾート編”の魅力は何だったのか

良いなと思ったのはオープニング、吉瀬さんのバックボーンの2つですかね。

 

まずオープニング。ここはもう小日向さんさすが、という感じ。堅物の寿司屋のオヤジを「コントとドラマのいい感じの狭間」で演じてみせるのは、熟練の為せる技としか。というか全編渡ってドラマでの「コント感」の扱い方は「さすが」という感じなんですが、このシーンは彼が「寿司屋のオヤジを演じている」という劇中劇、ドラマの中のコントというシーンなので、その技術が一層際立つワケです。

 

なのでこのシーンでは東出さんの圧倒的棒読み演技もなんか可愛く見えてくる

(あ、東出さんが棒なのか棒じゃないのかという議論があるみたいですが、棒です。「じゃああんなに売れてんのはなんでよ!」とファンが唾飛ばしながら怒りそうですが、「知らんがな」としか答えられへん。でも棒なんや。まっすぐ、すごくまっすぐなんや。でも絶対良い人なんや。

 

詐欺が題材である以上、劇中劇のシーンは必然的に多くなりますが、シーンの設定と小日向さんの演技がバチっとはまると面白いシーンになります。

もう一つ良いなと思ったのが吉瀬さんのバックボーン。「なぜリゾート業を支配したがっているのか」が説明されていて、なんかちょっと感情移入してしまう部分もあり。なのでラストの、新たにやり直すために開いた小さなゲストハウスで、吉瀬さんが床磨いてるシーンとか良かったですよね。「頑張れ」って素直に思いました。


3. ヤクザの事信じてる時点でもう餌に掛かってるよね

あんまり詐欺の完成度というか「この時点でバレるやん」とか指摘するのは重箱の隅をほじくっているようでやりたくないんだけども、ヤクザの件についてはめちゃくちゃ気になりました。

お察しのとおりヤクザも詐欺師たちに丸め込まれてました(or 最初から詐欺師たちの仲間だった)という種明かしがあるんだけども、いやいや、吉瀬さんにヤクザを信用させるのが一番難しいだろと。なんか長年信頼してるみたいな描き方してたけども。

 原則として、一番難しい所を「いやそういう設定なので」とはしょるのはルール違反です。プリズン・ブレイクで「彼らは、まあとりあえず牢屋を出る事には成功しまして、さあ今度は壁を登らないといけません!」なんて展開だったらみんな怒るでしょ。

それをこのドラマはやってるんですよ!どうやって彼女はそのヤクザ(役)と知り合って、どうやって信頼を勝ち得たんですか!

アクロイド殺しもびっくりのルール違反です。あ、そういえばアクロイド殺し三谷幸喜さんでドラマ化されてましたね。見ときゃよかった。因みにアクロイド殺しは「小説の語り手が犯人でした」という当時「ルール違反だろ」と物議を醸したアガサ・クリスティの小説です。


4. 相変わらず強い女が苦手な吉瀬さん:腕組みムズイ

「シグナル」の感想でも書いたんですが、吉瀬さんの「強い女の演技」はやっぱりちょっと無理があるっぽい。如実に表れるのが腕を組んでる時。見た方はなんとなく伝わると思うんですけども、腕を組んでる姿が絶妙にわざとらしい。フワフワしてる。「演技してます」感が半端じゃない。そうするとどうなるか。なんか見ててこっちが恥ずかしくなってくるんですよ。
で、「シグナル」評でも言ったかもですが、こういう女優さんってめっちゃ多い!!!体の使い方学んでください!そしたら誰でもできるようになるから!練習あるのみです。


5. 悪い口コミを書くだけのチンケなやり口

で、実はそれ以上に気になったのが悪役の設定。
どんな作品にも共通する「作劇のルール」というか、法則があって、悪役の魅力は作品の面白さに比例するこれはもう絶対です。

悪役がしょぼいと作品もしょぼいです。当たり前ですよね。すぐ倒せちゃう悪役だったらつまらんし、そもそも倒す価値あるっけ?って首を傾げたらその時点で誰も見なくなりますから。

で、吉瀬さん演じるリゾート王のやり口がめちゃくちゃセコイんですよ。


安く買いたたきたい旅館があります。どうすると思います?・・・口コミサイトで悪い評価をたくさん書き込む!マジか!ヤクザとかと平気で付き合うクセに肝心の旅館買収はそんなんか!キーボードカタカター!!

もう一つは高級ブティックのシーン。他の客が手に取った服を見て「あ、あれ欲しい」と思った吉瀬さん、店員に「あれ、私が予約してた服よね?」と言って横取り。

ちっちゃ!ちっちゃ過ぎる!ただのジャイアンじゃねえか!

そういうのが、「リゾート王に、俺はなる!」という設定とミスマッチで、魅力を非常に削いでいるんですね。

感想を簡単にまとめると、「星野リゾートに喧嘩売ってるな」という内容でした。誰が見ても星野リゾートさんの事だからね。

次回も楽しみ!ライザップ辺りが叩かれるのかな・・・?

Missデビル①(2018/4/14放送):会社は学校じゃないんだよ問題

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斉藤博史は志望していた共亜火災保険に入社でき、希望に満ち溢れていた。しかし、その希望は新入社員研修で打ち砕かれる。研修を担当した人事コンサルタントの椿眞子は、新入社員たちに退職届を書かせると、「50人の新入社員を10人まで減らす」と宣言し、新入社員たちに過酷且つ理不尽な課題を施す。(Wikipediaより)

 

・・・この見終わった後の徒労感。開始5分で「あ、俺は今から60分間、ただこのブログため以外一切の意味を持たない時間を過ごす事になるぜっ!」と確信した。今のところ今期ワーストのドラマです。これがプロの仕事ってんだから残念極まりない。ただ一つだけ収穫があった(と無理にこじつける)とすれば、今だに小劇場のクソ舞台が減らないのはこういうドラマが存在するからか、と発見できたことですかね。詳細は後述します。とはいえ西田敏行さんの演技が見られるのは嬉しいということも一言添えておきます。どんな低レベルな作品でもやっぱり西田さんは素敵なんですね。

 

 


第1回の総評・・・★☆☆☆☆☆


1. クソ舞台が減らない理由がわかった

仕事柄、小劇場の芝居をちょこちょこ見に行くが、次の条件が揃った舞台はほぼ地雷と言って間違いない。

 

 ①あまり有名ではないアイドルが主演or準主演
 ②他のキャストも若者が中心だが2人くらい年長者がいる
 ③チケット代が4500円以上

 

ね、危険な匂いがしますでしょう・・・?
で、こういう舞台は大概、まずテンションが最初からやたらと高い。「ひどいじゃないか!」に類する台詞が頻発する。周りを振り回す主人公はちょい天然気味。観客席を見渡すと腐女子っぽい子がちらほら・・・。ね、地雷が主張し過ぎて火薬の香りまで漂ってきますでしょう・・・?

 

結論から言いますと「Missデビル」みたいなドラマが地上波で放映されているから、そういうゴミ舞台が減らないんだと分かりました。だって、地上波で放送=プロが作っている=プロが認めている=私たちもこれを作ろう!爆笑感動間違いなしだぜ!という思考回路になりますものね。

あんまり舞台に携わっている方々を敵に回すようなことを言っても損にしかならないのでここでやめますが、僕は愚痴ってるのではなくて、日本の舞台芸術の向上のために、勇気を出してこの文章を綴っているのです。


嘘です愚痴です

あの舞台とあの舞台とあの舞台には今でも「金返せ」と思っています。

でもそれもこれも・・・こんなドラマが蔓延っているせいなんだね!


2. 早々に退散するマルフォイ:「いつまで学生のつもりなんだ!」と脚本家に言いたい

このドラマの最大の欠点はですね、学園ドラマのノリを、企業のドラマにそのまんま持ち込んでいるところだと思います。
学校での新入生いびりならいざ知らず、新入社員たちにボロボロになるまで走らせたり、穴を掘ってまた埋めさせたり、「誰がこの会社に必要ないか」って紙で投票させたり、全部学生のノリ。だから菜々緒さんが厳しいことやればやるほど、リアリティの無さも相まって、どんどんドラマとしての真剣味がなくなっていく訳です。

 

リアリティに関しては、このドラマに関しては何も言いません。パワハラ新人研修を誰かがスマホで撮影して拡散したら会社終わりやんけとか新入社員の子の自殺が成功してたら会社終わりやんけとか自主退職させるのにネイビーシールズ的なしごき方をする非効率さとか会社の業績悪化により新入社員を削減したいクセにしごき要員のムキムキ外国人を雇う予算はあるんかいとか、何も言いません

 あ、でもこれだけは言いたいんだけども、
ムキムキの外国人のああいうステレオタイプ的な使い方をするやつは、本当クソ!脚本なのか演出なのか知らんけど、マジでクソ!ここはちょっと本気で怒っています。どんだけ感覚遅れてんだよって話。

 

で、このセクションのタイトルでも示唆してますが、「ハリーポッターっぽいわー」と思いながら見てたんですね。「ハリーポッターと足長コンサル」、みたいな。主人公の新入社員くんがポッターで、ちゃんとマルフォイ的なやつがいるんですよ。社長とか会長もダンブルドアっぽいし。もちろんハーマイオニーもいる。もちろん菜々緒さんは我らがスネイプ先生です!

 

ちなみにマルフォイはこの回で早々にこの会社を去る事になります。役名はマルフォイじゃないけどね。でもいちいち覚えてられないのでもうマルフォイでいいです。マルフォイは他の子をいじめ過ぎてやめさせられちゃいました。かわいそうなマルフォイ。ああ、マルフォイ。

 

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3. お父さんとの電話のやりとりの台詞の薄っぺらさ

地獄の研修(笑)から一人暮らしの自宅に帰ってきた主人公は、父親と電話で話す。

 

父「どうだ、研修うまくいってるか?」
主人公「・・・まあ、楽勝って感じ」
父「そうか、楽勝か。お前は小さい頃からマイペースなんだから、無理するなよ」

 

この絶妙な薄っぺらさよ。


まず電話の一言目が「どうだ、研修うまくいってるか?」という、何というか、脚本家が言ってほしい事だけ言ってる感。「今話せるか?」とか「もう家か?」とか「飯は食ったのか」とか全て、そういった全てをすっ飛ばして本題へひとっ飛びだぜ

「研修うまくいってるか?」!!

 

そして更に「お前は小さい頃からマイペースなんだから、無理するなよ」。いやいやあんたが無理しとるがな、そんなワザとらしい台詞。「無理するなよ、お前マイペースなんだから、小さい頃から」と語順入れ替えるだけでだいぶマシになるのに、それさえしない脚本家の怠慢。

練られていない台詞とか会話とかっていうのは、かなりバレます。自戒も込めて、きちんと一つ一つ大事にしなきゃなと。
特にこのシーンは初めて主人公のプライベートが映し出される大事なシーンなので、めちゃめちゃ目立ちました。雑っ!


4. これを「面白い」という人は「セッション」を見てぶったまげるべき

本当かよと思ったのですが、このドラマを「面白い」という人も一定数いるようで。好き好きですからそれはいいんですけど。で、「怖い」っていう感想もあるそうなんですね。菜々緒さんが怖いということなんでしょうか。


で、是非ともですね、この「Missデビル」という作品を「面白かった」「怖かった」と感じられる方々にはですね、デミアン・チャゼルの「セッション」をご覧いただきたいんですね。如何にあの菜々緒さんの鞭ピシッ!が(ギャグだとしても)演出として雑なのか分かると思いますし、「悪魔」を演じるにはただクールに振舞っときゃいいわけじゃないって事も感じられると思いますし。

 

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まあ「セッション」は広い意味では学園ものなので、企業が舞台の「Missデビル」がそのまま踏襲すると先に述べたように成立はしなくなるんですが、興奮の度合いの比較というところで是非。

 

と散々悪口を書いてしまいましたが、「できるだけたくさん見る」とブログのタイトルでも謳っているので、最後まで見ようと思います。

あなたには帰る家がある①(2018/4/13放送):日本のドラマが”個人経営の飲食店依存症”を克服する日はくるのか

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原作は、直木賞作家・山本文緒が1994年に発表した同名の長編小説。ある2組の夫婦の日常に潜む、不満やすれ違い…。誰もが共感できるリアルな生活を基にした大人の群像劇でありながら、次々と起こる予想外の展開から目が離せない!また、クスッと笑えるユーモラスな「夫婦あるあるネタ」も満載!まさに、TBS伝統の金曜ドラマ枠らしい“大人が楽しめる”ドラマとなる。(公式サイトより)


「夫婦あるあるネタ」ねえ。結論から言うと、オリジナリティが欠片も無くて、「このドラマを見る理由って何だ?」と首をかしげざるをえない内容でした。原作は夫婦それぞれの視点で描くという語り口の面白さがあるとのこと(まだ読めてないです)だけど、ドラマではそういう語り口の面白さも無し。ただ単に、何度となく描かれてきた不倫だったり愛憎劇を、何の新しさもユニークさも無く見せ続けるという、画期的なチャレンジのドラマだ。

 


第1回の総評・・・★★☆☆☆☆


1. その作品を見る理由は何なのか:他人の赤ちゃんのビデオみたい


「見る理由」を観客に探させるのって作り手として責任を果たしてないと思うんですよ。何でもいいから「見たいと思わせる何か」は用意すべきでしょ。どこにでもある、それこそ何万回と語られてきた夫婦関係の変遷や不倫を描くんであれば、「見たい」とこっちが思えるような設定だったり、キャラクターだったり、語り口だったりを作らないと。っていうか、それ作らずになぜオンエアにGOサイン出した?


本当に何でもいいんですよ。カメラワークでもいいし、衣装だったりセットだったりも十分「見る理由」になりうる。

 

有名なエピソードだけど、デビッド・フィンチャーは「セブン」の脚本を読んだ時、刑事達がずっと追っていた犯人が自首してくるシーンを読んで「この作品はいける」と確信したという話がある。そのシーンを読むまでは凡百の刑事ドラマと変わらないと感じていて監督を引き受けるのを断る気だったらしい。つまりフィンチャーにとってはその自首のシーンが「見る理由」だったワケだ。

 

でもそれがこのドラマには無い。「見ようと思わせる何か」が、そもそも作り手に用意する気が無いのかしらんけど、欠落しとるんや。なんでや。プロちゃうんかい。

 

見るべき理由が唯一あるとすれば、後述しますけども、主演が中谷美紀さんという点。

でもそれって本質的には作り手が提示すべき「その作品を見る理由」にはできない、というかしちゃいけないよね。だったらキャスティングさえできちゃえば脚本も演出も素人でいいじゃんって話になってくる。

出演者の方々が脚本を読んだ時に何を感じたのかめちゃくちゃ気になる。


2. モデルルームでのロープレは近年稀に見るキモいシーン:悪女に描いてどうする

 

せめて語り口にオリジナリティがあれば見るべき理由には十分だったんだけども、原作にはそれがあるのに、ドラマになった途端消滅している。
夫婦それぞれの視点で描くという語り口、まさかキャラクターの心の声のナレーションを挿入すれば成立すると思ったのか!?本気か!そうじゃなくてシチュエーションだったり映像編集だったりで観客の気持ちを引き込んでくれないと、それぞれの視点で物語を眺めるなんて事はできない。

 

例えば、玉木宏さんと木村多江さんが初めて会うシーン。
玉木宏さんが営業マンとして客を待っているモデルハウスを、ふらりと木村多江さん(これまた不倫AVの女優みたいなダッサい衣装)が訪れる。木村多江さんは突然キッチンで夫婦ごっこを始める。「変な人だな」と思いつつ夫婦ごっこに乗っかる玉木宏さん。

 

「ふふ、ごめんなさい、付き合わせちゃって」
「いえ、意外と楽しかったです」

 

なんていう鳥肌ものの台詞でこのロープレは終了するんだけども、このシーンでの木村多江さんがとにかく「悪女の可能性が高いぞ、気をつけろ玉木宏」という描かれ方をしてるんですね。なんというか、絶対こいつ女友達少ないだろ的な。男を無意識に自分のこと好きにならせて、でも「そんなつもりじゃなかった」ヅラする女。大好きです。

 

いや、僕が言いたいのはですね、ここで彼女を悪女として描いてその罠に落ちそうな玉木宏という描き方をしてしまうと、「夫婦それぞれの視点で描く」という語り口が崩れるんですよ。
このシーンでも玉木宏さんの心の声ナレーションが入るけども、観客はその心の声も含めて、この状況を第三者目線で眺めるようになるワケです。コメディシーンの典型的な作り方。そうすると当然、玉木宏視点でのシーンでは観客は見なくなる。

別にこのシーンを必ず玉木宏さんのキャラクター視点で語らなきゃいけないワケじゃない。でも語り口ぐらい工夫してくれよと言っているのです。だってね、本当にこのシーン、気色悪かったんですもん。「何見せられてんねん」という感じ。


3. 久しぶりに走るクセにピッカピカのウェア:細かいリアリティは細かくない

 

めちゃくちゃ細かいし「そこは別にいいやん」というポイントかもしれないけども、そんなことはない。中谷美紀さんが娘にランニングに誘われて、数年ぶりに走るシーンの彼女の衣装。ウェアと靴。

新品やん。

つまり前回ウェアと靴を購入したはいいけど、一回も使わずずーっと走っていなかったという設定?んなアホな!

まあこんな細かい事気にすんなと思いますけども、せっかく予算あるはずなのにこういう所をサボるのが解せない。


4. いい加減「メインキャラクター達には共通の行きつけのお店がある」設定やめませんか

 

これは本当にここ5年くらい、僕の知人は嫌というほど聞かされている愚痴かもしれません。

 こういう店があると便利なんですよ、脚本家的には。だって全部口頭で説明する場所を作ってくれるんだもん。

 

個人経営のお店、店主とは仲良し、主人公の一言目は「ねえ聞いてよ!」がテンプレ、しかもメインの登場人物たちはみんな常連。店主は気さくで何でも聞いてくれる包容力があってもはや料理じゃなくて占いやった方が儲かるんじゃないのってぐらい良い奴。

プライベートのことも仕事のことも、全部打ち明けちゃう!視聴者はたまたまその風景を見て、物語の設定を非常に効率的に理解できる!なんて便利なシーンなんだ!個人経営の飲食店!これ発明した人誰だ!天才だ!状況も心情も人間関係も、全部台詞で順序だてて喋ってくれるんだもんねー!わかりやすーい!


ワタクシ、もうウンザリですのよ!


5. 中谷美紀さんは好きだからちゃんと見ます

 

 

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数年前に「猟銃」というPARCO劇場での中谷美紀さんの一人芝居で感激してから、中谷美紀さんにはゾッコンです。一つでも多く彼女の作品を目にしておきたいという思いから、このドラマも最後まで見ようと思います。とはいえ、しばらく前に放映されていた「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」というドラマは(そしてこれにももちろん、個人経営の飲食店は登場してるんだぜ)途中で耐えられなくてやめたけど。

 

今回は途中から尻上がりに面白くなる予感もするので、こんだけボロクソ言っておきながらアレですけども、今後が楽しみです。

シグナル①(2018/4/10放送):”引きずっている過去”で面白さはある程度保証されるよね

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三枝健人(坂口健太郎)は、幼い頃に起きた女児誘拐殺人事件で、被害者の女子児童を連れ去った謎の女を目撃。そのことを警察に訴えるものの相手にされず、15年後、事件は間もなく時効を迎えようとしていた。警察官になった健人は、ある日、廃棄予定の無線機から声がすることに気付く。(番組公式サイトより)

 

映像のクオリティからして他ドラマとは段違いの制作者の本気度が伝わるドラマ。色味も綺麗だし「映画っぽい」と思った人も多いのでは。韓国の同名ドラマが原作とのこと。夜中に見逃し配信を見たけど面白くって目が覚めたよ!

 

  

第1回の総評・・・★★★★☆☆

 

1. 韓国感ビンビン:チョン・ジヒョンは今


「シグナル」では、現在と過去の刑事が、とある無線機を使ってコミュニケーションを取る。この設定から思い出す映画が2つ。

 

 ・「オーロラの彼方に」:時を超えて親子が無線機で連絡を取る。
 ・「イルマーレ」:時を超えて男女が魔法のポストを通じて文通する。

 

他にも何かあったような気がするけど、とりあえずパッと思いつくのは以上の2つ。
そして僕が一番語りたいのは「なぜか映画で見ると超絶可愛く見えてくるチョン・ジヒョンの謎」だったりもするけど、そうすると「シグナル」とは微塵も関係なくなってしまうのでまたの機会に。

 

いやー、チョン・ジヒョンはハリウッドに行ってからというもの、とんと見かけなくなりましたね。寂しい。「猟奇的な彼女」の勢いで作った「僕の彼女を紹介します」とか、めっちゃ勢いだけで作った感満載(死んだ彼が舞い戻ってくるシーンとか爆笑もの)なのに、最後まで見れちゃうのはやっぱりチョン・ジヒョンだからです。「なぜか映画で見ると超絶可愛く見えてくる女優」はレニー・ゼルヴィガーとチョン・ジヒョンがトップ2だと思います。

本当にこれでチョン・ジヒョンについては以上とします。

 

このドラマの冒頭、主人公が小学生時代に見かけた女の子が殺されるという事件の回想から始まるけども、女の子を容赦無く死なせるあたり、めっちゃ韓国作品っぽい。傑作「チェイサー」とか「殺人の追憶」とかもそうだけど。

女の子がゴミみたいに死んでいく非情な演出。死ぬ人の死ぬ前の表情をちゃんと映すんですよね。で、「うわー、(精神的に)きっつ!」と観客の心を追い込みつつ、比例して物語に引き込んでいく道具としての残酷さ。この辺りは韓国映画・ドラマの一番上手いところなんじゃないでしょうか。

そして今回の日本版「シグナル」もきちんと味わわせてくれます。うわ、きっつ!!と。


2. “強烈な過去”の効用:誰にでもある後悔「どうして声を掛けなかったんだろう」

 

「うわ、きっつ!」は物語の冒頭には非常に有効に働く。観客の心を掴んだも同様なので。

誰しもが後悔してると思うんですよ。「どうして声を掛けなかったんだろう」って。恋愛ではもちろん、友達だったり、場合によっては他人のあの人に声を掛けるべきだったと後悔している人もたくさんいるに違いない。それぐらい「どうして声を掛けなかったんだろう」って、普遍性の高い後悔なのではないかなと。

 

なので、そういう後悔が無い人はひょっとしたら「シグナル」は楽しくないのかもしれない。昔の後悔を打ち消す事が主人公の原動力なので、その原動力を信じられない人にとっては「なんでそんな頑張るのか分からん」という事になるので。

 

少なくとも僕は中学校時代に告白する勇気が出ず、現在も日本人の3人に2人は患っていると言われている「どうしてあの時僕は彼女に好きと伝えなかったんだろう症候群」が進行中なもので、「シグナル」の主人公、三枝くんには「分かるぜお前の気持ち!つれえよな!」と拳を握りっぱなしなワケです。

因みに「強烈な過去」が現在も主人公を縛っているという設定でパッと思いつくのはジム・キャリーの「トゥルーマン・ショー」。ストーリーもさる事ながら、ジム・キャリーの演技も素晴らしいので是非ご覧ください。


3. 主人公はまだ少年:だから舌ったらずが実はちょうどいい

 

少し真面目な話を。
主人公を演じる坂口健太郎さんについて「舌ったらずなセリフ回しが気になる」という感想がちょこちょこあるらしい。まあ言わんとする事は分からんではないし、確かに彼はどの作品に出ていても若干滑舌に問題はある。

 

ただし、この作品については実はそれがプラスに働いているかもしれないとも思う。

というのは、先ほどのセクションでも書いたが、「どうして声を掛けなかったんだろう」という小学生時代の後悔を未だに引きずっている男なワケで、これはつまり、彼が”小学生の頃から変化していない”と脚本的には扱う事になる。事件の進展や解決と共に彼がその過去と向き合って成長していく過程がドラマの肝となり、その過去を克服したり、再解釈したりする事がイコール”彼が大人になる事”を示す事となる。

ということは、彼は(あくまで脚本術的に言えば)まだ子供なワケだ。

そして坂口健太郎さんの舌ったらずな台詞回しが「主人公がまだ幼い存在である事」の表現に、はからずもなっている。

ちょっと無理があるか。


4. 吉瀬美智子さんの身のこなし問題:「強い女」はムズイのだ

 

吉瀬さんの凛々しい美しさ、何時間でも見てられますね。本当お綺麗。
ただ、ちょっと吉瀬さんの身のこなしを見てると、「あ、こういう女優さん本当多いわ」と感じる。所謂「上から目線の女」を演じさせると、なんというか、肩で風を切ってる感じというか、動きがぎこちないんですね。無理してヒョウっぽい動きしてるというか。伝わらないと思うんですけど。

「強い女」を演じるのってものすごく難しいと思うんですよね。だって脚本からしてかなりワザとらしい「強さ」を求めてきてたりするから。例えば、書類とかを差し出されて即座に「ああ、それ、置いといて。」みたいな台詞、本当よくあるけど、嫌な女ならまだしも、強い女で「ああ、それ、置いといて」みたいに言うヤツいないからね。


日本のドラマの脚本で一番ダメなところって、「こういう人はこういう事言うよね」というステレオタイプに満ち満ちているところ。そうしないと視聴者がついてこれないでしょ、なんてのは完全に視聴者をナメきっている人の考えなワケで。事実相当ナメられてるけどね。

「シグナル」に関しては、そういうステレオタイプ的な強い女という描かれ方がされているとは思わないけど、やっぱり強い女の難しさっていうのはやっぱりあるワケで、役者としての体の使い方をマスターしていない吉瀬さんには少々ハードルが高いように見えます。大変失礼ですけども。

 

5. 今クールNo.1は確定

 

と、いろいろ御託を並べましたが、今クールNo.1のドラマである事はほぼ間違いないんじゃないでしょうか。他の全部見たワケじゃないけど、冒頭でも言ったように映像からして本気度が違いますから。韓国での大ヒットドラマという事でストーリーの面白さは担保されてるワケだし。

 

次回にも期待。