【2018春版】TVドラマをできるだけたくさん見て感想を書くブログ

脚本家目線で2018年春のTVドラマをできるだけたくさん見て感想をまとめます!

あなたには帰る家がある①(2018/4/13放送):日本のドラマが”個人経営の飲食店依存症”を克服する日はくるのか

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原作は、直木賞作家・山本文緒が1994年に発表した同名の長編小説。ある2組の夫婦の日常に潜む、不満やすれ違い…。誰もが共感できるリアルな生活を基にした大人の群像劇でありながら、次々と起こる予想外の展開から目が離せない!また、クスッと笑えるユーモラスな「夫婦あるあるネタ」も満載!まさに、TBS伝統の金曜ドラマ枠らしい“大人が楽しめる”ドラマとなる。(公式サイトより)


「夫婦あるあるネタ」ねえ。結論から言うと、オリジナリティが欠片も無くて、「このドラマを見る理由って何だ?」と首をかしげざるをえない内容でした。原作は夫婦それぞれの視点で描くという語り口の面白さがあるとのこと(まだ読めてないです)だけど、ドラマではそういう語り口の面白さも無し。ただ単に、何度となく描かれてきた不倫だったり愛憎劇を、何の新しさもユニークさも無く見せ続けるという、画期的なチャレンジのドラマだ。

 


第1回の総評・・・★★☆☆☆☆


1. その作品を見る理由は何なのか:他人の赤ちゃんのビデオみたい


「見る理由」を観客に探させるのって作り手として責任を果たしてないと思うんですよ。何でもいいから「見たいと思わせる何か」は用意すべきでしょ。どこにでもある、それこそ何万回と語られてきた夫婦関係の変遷や不倫を描くんであれば、「見たい」とこっちが思えるような設定だったり、キャラクターだったり、語り口だったりを作らないと。っていうか、それ作らずになぜオンエアにGOサイン出した?


本当に何でもいいんですよ。カメラワークでもいいし、衣装だったりセットだったりも十分「見る理由」になりうる。

 

有名なエピソードだけど、デビッド・フィンチャーは「セブン」の脚本を読んだ時、刑事達がずっと追っていた犯人が自首してくるシーンを読んで「この作品はいける」と確信したという話がある。そのシーンを読むまでは凡百の刑事ドラマと変わらないと感じていて監督を引き受けるのを断る気だったらしい。つまりフィンチャーにとってはその自首のシーンが「見る理由」だったワケだ。

 

でもそれがこのドラマには無い。「見ようと思わせる何か」が、そもそも作り手に用意する気が無いのかしらんけど、欠落しとるんや。なんでや。プロちゃうんかい。

 

見るべき理由が唯一あるとすれば、後述しますけども、主演が中谷美紀さんという点。

でもそれって本質的には作り手が提示すべき「その作品を見る理由」にはできない、というかしちゃいけないよね。だったらキャスティングさえできちゃえば脚本も演出も素人でいいじゃんって話になってくる。

出演者の方々が脚本を読んだ時に何を感じたのかめちゃくちゃ気になる。


2. モデルルームでのロープレは近年稀に見るキモいシーン:悪女に描いてどうする

 

せめて語り口にオリジナリティがあれば見るべき理由には十分だったんだけども、原作にはそれがあるのに、ドラマになった途端消滅している。
夫婦それぞれの視点で描くという語り口、まさかキャラクターの心の声のナレーションを挿入すれば成立すると思ったのか!?本気か!そうじゃなくてシチュエーションだったり映像編集だったりで観客の気持ちを引き込んでくれないと、それぞれの視点で物語を眺めるなんて事はできない。

 

例えば、玉木宏さんと木村多江さんが初めて会うシーン。
玉木宏さんが営業マンとして客を待っているモデルハウスを、ふらりと木村多江さん(これまた不倫AVの女優みたいなダッサい衣装)が訪れる。木村多江さんは突然キッチンで夫婦ごっこを始める。「変な人だな」と思いつつ夫婦ごっこに乗っかる玉木宏さん。

 

「ふふ、ごめんなさい、付き合わせちゃって」
「いえ、意外と楽しかったです」

 

なんていう鳥肌ものの台詞でこのロープレは終了するんだけども、このシーンでの木村多江さんがとにかく「悪女の可能性が高いぞ、気をつけろ玉木宏」という描かれ方をしてるんですね。なんというか、絶対こいつ女友達少ないだろ的な。男を無意識に自分のこと好きにならせて、でも「そんなつもりじゃなかった」ヅラする女。大好きです。

 

いや、僕が言いたいのはですね、ここで彼女を悪女として描いてその罠に落ちそうな玉木宏という描き方をしてしまうと、「夫婦それぞれの視点で描く」という語り口が崩れるんですよ。
このシーンでも玉木宏さんの心の声ナレーションが入るけども、観客はその心の声も含めて、この状況を第三者目線で眺めるようになるワケです。コメディシーンの典型的な作り方。そうすると当然、玉木宏視点でのシーンでは観客は見なくなる。

別にこのシーンを必ず玉木宏さんのキャラクター視点で語らなきゃいけないワケじゃない。でも語り口ぐらい工夫してくれよと言っているのです。だってね、本当にこのシーン、気色悪かったんですもん。「何見せられてんねん」という感じ。


3. 久しぶりに走るクセにピッカピカのウェア:細かいリアリティは細かくない

 

めちゃくちゃ細かいし「そこは別にいいやん」というポイントかもしれないけども、そんなことはない。中谷美紀さんが娘にランニングに誘われて、数年ぶりに走るシーンの彼女の衣装。ウェアと靴。

新品やん。

つまり前回ウェアと靴を購入したはいいけど、一回も使わずずーっと走っていなかったという設定?んなアホな!

まあこんな細かい事気にすんなと思いますけども、せっかく予算あるはずなのにこういう所をサボるのが解せない。


4. いい加減「メインキャラクター達には共通の行きつけのお店がある」設定やめませんか

 

これは本当にここ5年くらい、僕の知人は嫌というほど聞かされている愚痴かもしれません。

 こういう店があると便利なんですよ、脚本家的には。だって全部口頭で説明する場所を作ってくれるんだもん。

 

個人経営のお店、店主とは仲良し、主人公の一言目は「ねえ聞いてよ!」がテンプレ、しかもメインの登場人物たちはみんな常連。店主は気さくで何でも聞いてくれる包容力があってもはや料理じゃなくて占いやった方が儲かるんじゃないのってぐらい良い奴。

プライベートのことも仕事のことも、全部打ち明けちゃう!視聴者はたまたまその風景を見て、物語の設定を非常に効率的に理解できる!なんて便利なシーンなんだ!個人経営の飲食店!これ発明した人誰だ!天才だ!状況も心情も人間関係も、全部台詞で順序だてて喋ってくれるんだもんねー!わかりやすーい!


ワタクシ、もうウンザリですのよ!


5. 中谷美紀さんは好きだからちゃんと見ます

 

 

Yuki Utsumiさん(@doro.mi)がシェアした投稿 -

数年前に「猟銃」というPARCO劇場での中谷美紀さんの一人芝居で感激してから、中谷美紀さんにはゾッコンです。一つでも多く彼女の作品を目にしておきたいという思いから、このドラマも最後まで見ようと思います。とはいえ、しばらく前に放映されていた「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」というドラマは(そしてこれにももちろん、個人経営の飲食店は登場してるんだぜ)途中で耐えられなくてやめたけど。

 

今回は途中から尻上がりに面白くなる予感もするので、こんだけボロクソ言っておきながらアレですけども、今後が楽しみです。